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特集 第41回 脳のシンポジウム
Steroid/thyroidホルモン系による脳発達の調節機構
エストロゲンによる脳の性分化と機能の調節
佐久間 康夫
※1
※1 日本医科大学大学院医学研究科システム生理学分野
【キーワード】 アロマターゼ仮説,性的二型,ロードーシス反射
はじめに 雌雄が異なった配偶子を生産することで子孫を残す有性生殖では,成功の戦略として内分泌的調節と行動学的調節を一致させなければならない。すなわち,雌では子孫に伝える遺伝情報の他に,発生に必要とされる代謝機構やタンパクを大量に持つ卵子を成熟させるため,大きな投資をしなければならず,必要な時間も長い。一方,雄の産生する精子には遺伝情報と授精に必要な鞭毛を動かすための僅かなエネルギー源しか必要とされない。大きくて運動性を欠く卵子の成熟にあわせて授精が成立するために,配偶子の成熟と雌雄が邂逅する行動学的調節が一致する必要がある。このため,多くの哺乳類では周期的に繰り返される卵子の成熟のたびに,卵子を取り囲む卵胞も成熟してエストロゲンを分泌し,その都度雌の生殖行動を起こす。一方,精子はアンドロゲンの作用のもとで常時持続的に産生され,アンドロゲンに支配される雄の生殖行動も常時みられることになる。雌における周期的な卵子の成熟と発情,雄の連続発情という現象は,性腺の分泌する性ホルモンの相違ではなく,脳内神経回路の性ホルモン感受性の相違によることがわかっている。しかもこの相違は,遺伝的に決まるものではなく,脳の発育途上の特定の時期にアンドロゲンが作用すると,脳の雄型化・脱雌型化が起こることが実験的に確かめられる。この時期は多くの哺乳類で在胎中,あるいは周産期にあり,この時期のアンドロゲンの有無により,脳の性転換を実験的に起こすことができる。この時期を過ぎると,脳の性別は固定し,個体の生殖能力が完成する思春期まで,血中には性ホルモンが認められなくなる1)。個体の生殖能力が完成し,大量の性ホルモン分泌が始まる時期を思春期と呼ぶ。最近第19常染色体上に存在するGPR54受容体遺伝子の異常により,低ゴナドトロピン性性腺機能低下症から,思春期が発動しない症例2,3)が報じられ,GPR54とそのリガンドとして同定されたkisspeptin(当初ガン転移を抑制するmetastinとして報告された4))の,思春期発動への関与がにわかに注目を集めるに至った。思春期以降の雌にみられる周期的な卵子の成熟と,雄の精巣での連続的な精子の産生も,それぞれの性に特異な脳の調節のもとにあり,視床下部ペプチドの1つである,性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Gonadotropin-releasing hormone:GnRH)を最終共通路として,下垂体前葉のゴナドトロピン分泌,ひいては卵巣・精巣の性ホルモン分泌が制御される5)。分泌された性ホルモンは脳に作用して,GnRH分泌にフィードバック調節を及ぼすとともに,それぞれの性に特異な生殖行動を起こす。なお,脳内でもコレステロールから新規合成される,ニューロステロイドと呼ばれる一群の性ホルモンの存在が明らかになっており,一部のトリなどで脳の性分化への関与が示唆されるに至っているが,思春期以降の生殖内分泌・生殖行動への関与についての評価はまだ不十分である6)。また,中脳ドーパミンニューロンの数など,性ホルモンに依存しない性差の存在も知られており,何らかの性決定遺伝子が脳内で作用している可能性7)も提案されている。
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